2025年6月号(495号)

買収行動指針および公正M&A指針を踏まえた上場会社をめぐる買収事案の事例分析(上)―2024年4月~2025年3月

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 佐橋雄介  弁護士 菅 隆浩
弁護士 中野常道  弁護士 嶋田祥大

Ⅰ はじめに

 経済産業省は、2023年8月31日、「企業買収における行動指針──企業価値の向上と株主利益の確保に向けて」[1](以下「買収行動指針」という)を公表した。公表後、買収行動指針を踏まえた対象会社の同意なき買収提案や他の潜在的な買収者による対抗的な買収提案(以下「対抗提案」という)の実例も登場し、世間の注目を集めている。

 また、これに先立つ2019年6月28日には、同じく経済産業省から「公正なM&Aの在り方に関する指針──企業価値の向上と株主利益の確保に向けて」[2](以下「公正M&A指針」という)が公表された。公表から6年が経過するが、マネジメント・バイアウト(以下「MBO」という)や支配株主による従属会社の買収(以下「従属会社買収」といい、MBOと併せて「MBO等」という)において、公正M&A指針に沿って公正性担保措置を講じる実務運用が定着しつつある。一方で、近時はMBO案件の大型化や投資ファンドがこれまでとは異なる形で関与する上場会社の非公開化案件の増加といった新たな傾向が見られ、本年に入ってもMBO等・非公開化を模索する上場会社の数は、引き続き相当数に上っている。

 そこで、本稿では、昨年と同様に[3]、最新の上場会社をめぐる買収事案における、買収行動指針および公正M&A指針への対応状況を整理することを目的として、2024年4月から2025年3月までの公表事案をもとに、買収行動指針については、関係する事案を個別に紹介し開示資料から見て取れる各事案における対応策を分析することとし、また、公正M&A指針については、同指針の直接の対象とされるMBO等に加え、直接の対象ではないものの、近時、公正M&A指針に従って公正性担保措置を講じることが一般的になっている非公開化取引について、公正性担保措置の実施状況を統計的に集約し、分析することとする[4]。なお、公正性担保措置については、買収行動指針との関係でも重要性が認められる措置を中心に取り上げている。

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