令和7年(ヨ)第30094号 新株予約権無償割当差止仮処分命令申立事件
決 定
《住所略》
債権者 ニデック株式会社
同代表者代表取締役 P
同代理人弁護士 深山 卓也
同 岩倉 正和
同 中川 秀宣
同 小川 周哉
同 谷口 達哉
同 岡部 洸志
同 合田 顕宏
同 松岡惠美子
同 郭 宗澔
同 神津 周平
《住所略》
債務者 株式会社牧野フライス製作所
同代表者代表取締役 Q
同代理人弁護士 太田 洋
同 相澤 哲
同 松原 大祐
同 佐々木 秀
同 松長 一太
同 窪田三四郎
同 園 俊次郎
同 今野 渉
同 谷山風未花
同 小松 詩織
同 石羽 秀典
同 安田 里奈
主 文
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。
理 由
第 1 申立ての趣旨
債務者が令和7年4月10日開催の取締役会決議に基づいて現に手続中の新株予約権の無償割当てを仮に差し止める。
第 2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、令和6年12月27日に予告した上、令和7年4月4日に債務者の普通株式の公開買付け(以下「本件TOB」といい、本件TOBに係る提案を「本件提案」という。)を開始した債権者が、これに対応するために債務者が株主総会による承認を要件として同月10日開催の取締役会決議に基づき現に手続中の別紙1(甲1〔別紙1〕)記載の第1回A新株予約権(以下「本件A新株予約権」という。また、別紙2(甲1〔別紙2〕)記載の第1回B新株予約権(別紙1の12⑵参照)を、以下「本件B新株予約権」という。)の無償割当て(以下「本件無償割当て」という。)について、株主平等原則(会社法109条)に違反して、又は著しく不公正な方法により行われるものであり、債務者の株主である債権者が不利益を受けるおそれがあるなどと主張して、新株予約権の無償割当ての差止請求権(同法247条類推適用)を被保全権利とする本件無償割当ての差止めの仮処分を求める事案である。
2 争点
⑴ 被保全権利(会社法247条類推適用)
ア 本件無償割当てが株主平等原則に違反するか【争点1】
イ 本件無償割当てが著しく不公正な方法により行われるものか【争点2】
ウ 本件無償割当てにより債権者が不利益を受けるおそれがあるか【争点3】
⑵ 保全の必要性(民事保全法23条2項)【争点4】
3 当事者の主張
債権者の主張は申立書、債権者第1準備書面、債権者第2準備書面、債権者第3準備書面、債権者第4準備書面及び債権者第5準備書面に、債務者の主張は答弁書、債務者準備書面⑴及び訂正申立書に、それぞれ記載のとおりであるから、これらを引用する。
第 3 当裁判所の判断
当裁判所は、債務者による本件無償割当てについて、敵対的買収の阻止に向けられた伝統的な意味での買収防衛策ではなく、本件提案に競合する提案(以下「競合提案」という。)の受領や検討等のために合理的に必要な時間を確保することを目的とした対応にとどまるものであって、本件TOBと競合提案との比較検討等を通じて、企業買収に伴う正当な利益を債務者の株主が享受する機会を確保するために必要かつ相当な差別的取扱いというべきであるから、株主平等原則に違反するとは認められず(争点1)、また、上記目的に照らせば著しく不公正な方法により行われるものとも認められないから(争点2)、本件申立ては理由がないものと判断する。詳細は以下のとおりである。
1 認定事実
当裁判所に顕著な事実及び当事者間に争いのない事実に、後掲疎明資料(特記しない限り、枝番は全て含む。)及び審尋の全趣旨を併せると、次の事実を認めることができる(当該事実について疎明があるという趣旨で用いる〔以下同様〕。)。
⑴ 当事者等
ア 債権者(令和5年4月1日付け変更前の商号:日本電産株式会社)は、電気機器、電気機械及び器具等の製造販売等を目的とする株式会社(以下、株式会社の意味で単に「会社」ということがある。)であり、モーター事業を主力事業としている、日本を代表する電機メーカーのひとつであって、その普通株式を東京証券取引所プライム市場に上場している。令和6年3月期における連結売上高は2兆3471億5900万円、同月末における連結従業員数は10万1112名である。(甲4~6、8、乙1)
イ 債務者は、工作機械の製造及び販売等を目的とする会社であり、大手工作機械メーカーであって、その普通株式を東京証券取引所プライム市場に上場している。令和6年3月期における連結売上高は2253億6000万円、同月末における連結従業員数は4782名である。(甲10、11、乙5、6の2)
ウ 債権者は、令和3年8月に三菱重工工作機械株式会社(現商号:ニデックマシンツール株式会社)を、令和4年2月にOKK株式会社(現商号:ニデックオーケーケー株式会社)を、令和5年11月に株式会社TAKISAWA(以上の3社は、いずれも工作機械メーカーである。)をそれぞれ買収して、工作機械事業分野においても、既に、大手の一角を占めるに至っており、今後、さらに同事業を拡大して、世界屈指の工作機械メーカーになることを目指している。(甲7、8、71、77、79、乙2、129)
⑵ 本件TOBの予告等(甲12、14、乙8~10)
ア 債権者は、令和6年12月26日開催の取締役会において、債務者を債権者の完全子会社とすることを目的とする一連の取引(以下「本件取引」という。)の一環として、債務者の普通株式を金融商品取引法に基づく公開買付け(本件TOB)により取得することを決議し、同月27日、債務者に対し、その提案(本件提案)を記載した意向表明書を送付するとともに、その要旨(次のイないしオを含む。)を公表した(このプレスリリースを、以下「本件提案PR」という。)。なお、債権者は、令和6年8月頃より本取引に係る検討を開始した(甲12〔18頁〕)ところ、本件提案に先立って、債務者に対して事前交渉やデュー・ディリジェンス(以下「DD」という。)の打診はしなかった。
イ 本件TOB(予定)の概要
① 買付価格 1株につき1万1000円(以下「本件買付価格」という。)
② 買付予定数 上限:なし、下限:1169万4400株(令和6年11月30日時点の総議決権数〔23万3887個〕(債務者が有する自己株式にかかる議決権数を除く。)の過半数となる議決権数〔11万6944個〕に債務者の単元株式数〔100株〕を乗じた株式数)
③ 買付開始時期 令和7年4月4日
④ 買付期間 31営業日(この期間を、以下「当初買付期間」という。ただし、応募株式数が買付予定数の下限に達した場合には、その旨を公表した日の翌営業日から起算して10営業日を確保できるよう当初買付期間を延長する(この延長に係る期間を、以下「追加買付期間」という。)。)
ウ 本件買付価格と本件TOB公表前の市場株価(東京証券取引所プライム市場における株価を指す〔以下同様〕)との関係
本件買付価格は、令和6年12月26日の終値(7750円)に対して41.94%の、同日までの直近1か月間の終値単純平均値(7112円)に対して54.67%の、同直近3か月間の終値単純平均値(6552円)に対して67.89%の、同直近6か月間の終値単純平均値(6313円)に対して74.24%の、各プレミアムを加えた価格となっている。
エ 本件TOBの前提条件(次の①及び②のすべてが充足され又は債権者により放棄された場合に、本件TOBを開始するというもの)
① 本件取引の実行に当たり必要となる国内外の競争法及び外資規制に基づく手続がすべて完了し、又は当初買付期間の末日までに完了することが合理的に見込まれると債権者が判断していること
② ⓐ金融商品取引法27条の11第1項ただし書に定める公開買付けの撤回が認められる事由が生じていないこと(注:同法施行令14条1項1号カ〔新株予約権の無償割当てなど〕参照)、及びⓑ債務者の業務執行を決定する機関が本件TOBの決済開始日前を基準日とする剰余金の配当又は取得日とする自己株式の取得についての決定をしていないこと
オ 本件TOB後の組織再編等の方針(いわゆる二段階買収に関する事項)
債権者は、本件TOBが成立したものの、債権者が債務者株式の全てを取得できなかった場合のうち、①債権者が総議決権数の90%以上に相当する債務者株式を保有するに至った場合には、特別支配株主として、債権者以外の債務者の株主に対し、本件買付価格と同額で、債務者株式全部の売渡請求(会社法179条1項)により、②その余の場合には、債権者及び債務者以外の有する債務者株式が1株未満の端数になるような株式併合(同法180条1項)を付議する臨時株主総会(以下「株式併合付議総会」という。)の開催を債務者に要請することにより、スクイーズアウト手続を実施する予定である。同株式併合により生じた端数相当株式については、本件買付価格に株式併合前の株式数を乗じた額と同一になるような金額が株主に交付されるように算定した金額で任意売却する旨の許可(同法235条2項、234条2項)を裁判所に求めるよう債務者に要請する予定である。
なお、株式併合付議総会において、同議案が否決された場合には、債権者は、総議決権数の3分の2以上に相当する株式数に達するまで、本件買付価格と同額で債務者株式を追加取得し、改めて株式併合付議総会の開催を債務者に要請する予定であり、債務者を完全子会社することができる見込み時期にかかわらず、本件取引を実施する方針を変更しない。
また、本件提案PRには、債務者が本件TOBに賛同以外の意見表明を行ったものの本件TOBが成立した場合の株式併合付議総会において、「債務者の創業家かつ元代表取締役であるA氏が代表理事を務める財団法人」等が株式併合に係る議案に賛成すると見込まれることにより、同議案の承認決議の可決要件を満たすと予想される旨の記載(甲12〔9、10頁〕、以下「本件株式併合議案関係記載」という。)があった。
カ 債権者の創業者であるBグローバルグループ代表は、令和6年12月27日、日経ビジネスの取材において、債務者との買収はどう進めてきたのですか、との問いに対し、「今回は、事前の交渉はしていないです。買収交渉をして、やりとりを長くした挙げ句に、向こうがホワイトナイト(友好的買収者)を探し出したりすると時間がかかって仕方がない。今の時代はそんなことをやっている余裕はないですよ。」などと述べ、さらに、この後、ホワイトナイトが出てきたらどうしますか、との問いに対し、「本当に対抗者が出てきて、相手が買い付け価格を上げてくるなら、その相手に対してTOBをかけてもいいとさえ思っています」などと述べた(乙10、これらの発言の全部又は一部を、以下「本件B代表発言」という。)。
⑶ 本件TOBの予告後の経緯等
ア 債権者は、令和7年1月10日、債務者の普通株式100株を取得した。なお、債権者は、現在も、同株式を有している。(甲9、乙4)
イ 債務者の取締役会は、令和7年1月10日、本件提案の是非やストラクチャーを含む取引条件及び手続の妥当性及び公正性を検討するに当たって、債務者の企業価値の向上及び一般株主の利益を図る立場から、同取締役会による恣意的な判断を排除し、意思決定過程の公正性、透明性及び客観性を確保することを目的とするとして、特別委員会(以下「本件特別委員会」という。)を設置し、その委員として、いずれも債務者の独立役員である社外取締役4名を選任し、その旨を公表した。(甲16、乙11)
ウ 本件特別委員会は、令和7年1月15日、債権者に対し、①本件TOBの開始日を同年3月期決算の発表予定日の約1週間後である同年5月9日まで延期されたい旨の要請(以下「本件買付開始延期要請」という。)及び②本件TOBにおける買付予定株式数の下限を、総議決権数の3分の2に相当する1556万4200株とされたい旨の要請(本件買付開始延期要請と併せて、以下「本件各要請」という。)を記載した要望書を送付し、公表した。(甲17、乙12)
エ 債権者の副社長らと本件特別委員会の委員らは、令和7年1月17日、面談を実施した。債権者は、同日、本件特別委員会に対し、①本件各要請の理由とされている問題点に関する債権者の認識及び理解を説明して、本件各要請の再考も含めた更なる客観的な検討を依頼するとともに、②債務者の取締役会及び本件特別委員会に対して、直接の面談機会の頻度を上げながら、本件TOBへの賛同を得られるよう誠実に説明を行い、情報提供依頼があれば真摯に対応する意向である旨を記載した書面(以下「第一次説明書」という。)を送付し、公表した。(甲18、19、21、乙13、15)
オ 本件特別委員会は、令和7年1月22日、債権者に対し、本件各要請の再考を求めるとともに、本件B代表発言は本件提案と競合する提案を抑止させる言動に当たると指摘した上、同様の言動等の中止を併せて要請(以下「本件追加要請」という。)する旨を記載した再要望書を送付し、公表した。債権者は、同月27日、本件特別委員会に対し、①第一次説明書と同旨の内容のほか、②本件B代表発言は本件TOBをやり抜く覚悟が必要との意気込みを表したもので、他の事業会社の競合提案を委縮させる意図など全くないこと、③本件TOBの開始までに、代表取締役を含む債務者経営陣との直接面談の機会を是非設定してもらいたいことを記載した書面(以下「第二次説明書」という。)を送付し、公表した。(甲18、20、乙15、17)
カ 債務者の株主である創業家3名(C、D及びA)は、本件株式併合議案関係記載への対応として、金融庁に対し、本件TOBに応募し、又は、本件取引に賛成する予定はない旨を記載した、令和7年1月23日付けの書面を送付した。また、公益財団法人工作機械技術振興財団(以下「本件財団」という。)も、同様の趣旨の同年2月10日付け書面を、金融庁に対して送付した。さらに、本件財団は、同年3月3日、評議員会及び理事会において、本件TOBに反対し、本件TOBに応募しない旨の決議をしたことを公表した。(乙16の1~3、乙25、36)
キ 債務者は、令和7年1月28日、本件提案に関する検討体制として、フィナンシャル・アドバイザーとして野村證券株式会社を、リーガル・アドバイザーとして西村あさひ法律事務所・外国法共同事業(日本法務)及びSullivan & Cromwell LLP(米国法務)を、株主対応アドバイザーとして株式会社アイ・アールジャパンを、それぞれ選定・起用しており、また、本件特別委員会は、独自のフィナンシャル・アドバイザーとしてJPモルガン証券株式会社を、独自のリーガル・アドバイザーとしてアンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業を、それぞれ選定・起用している旨を公表した。(乙18)
ク 債務者は、令和7年1月28日、債務者の企業価値を向上させるか否かという観点から本件提案を精査するために必要と考える事項について確認することを目的として、債権者に対し、質問状(回答期限:同月31日)を送付し、公表した。債権者は、同日、債務者に対し、同質問状に対する回答を記載した書面を送付し、公表した。(甲15、22、乙19、21)
ケ 債務者は、令和7年1月31日、その取締役会において、第一次説明書及び第二次説明書の内容を精査した上、債権者の取締役会に対し、本件各要請及び本件追加要請と同旨の要請を行うこととし、その旨の要請書を送付し、公表した。債権者は、同年2月5日、債務者の取締役会に対し、同要請書に対する回答として、第一次説明書及び第二次説明書の内容の確認を求めるとともに、改めて債務者経営陣との直接面談を求める旨を記載した書面を送付し、公表した。(甲23、24、乙22、23)
コ 債務者は、令和7年2月7日、債権者に対し、追加の質問事項等を記載した質問状⑵(回答期限:同月14日)を送付し、公表した。債権者は、同月12日、債務者に対し、同質問状に対する回答を記載した書面を送付し、公表した。債務者は、同月21日、同回答書の受領によっても、本件提案が債務者の企業価値の向上に資するか否かを判断するために客観的に必要と考えられる情報を取得できたとは言い難いことから、さしあたり上記情報を取得することを目的として、債権者から強く要請のあった面談に応じることとし、当該面談を同年3月上旬を目途に実施する考えである旨を公表した。(甲25、26、28、乙24、27)
サ 債務者は、令和7年2月12日、令和10年3月期の目標を一部修正し、令和7年4月から令和12年3月期までの5年間を対象とする事業計画(以下「本件事業計画」という。)を新たに策定した旨を公表した。(甲53、乙26)
シ 債権者は、令和7年2月25日、本件提案後の経緯及び同日時点における債権者の見解を記載した書面(以下「債権者見解書面」という。)を公表した。同書面には、「なお、当社ご提案価格である1万1000円は、必要かつ十分な水準であると考えており、現時点では、仮に一部株主の皆様等から価格引上げ要請があった場合や、ホワイトナイトなどによる対抗案で同価格を上回る価格が提示されたとしても、この金額を引き上げる予定はありません。」との記載(以下「本件買付価格関係記載」という。)があった。また、同月27日の朝日新聞及び読売新聞の各朝刊には、債権者の副社長らが同月26日に開いた記者会見において、債務者側にホワイトナイトが登場するなど、予定する1株につき1万1000円での本件TOBが難しくなった場合は、買収から撤退するなどと語った旨の記事が掲載された。(甲54、乙28、31)
ス 債務者は、令和7年2月26日、債権者見解書面に関する債務者の見解を記載した書面(以下「債務者見解書面」という。)を公表した。同書面には、本件買付価格関係記載により、実際に競合提案がなされた場合でも、買付価格の引上げはなされないものと理解したことから、債務者は、このことを前提として、本件提案について、さらに精査していく旨が記載されていた。債権者は、同月27日、債務者見解書面の上記記載を受けて、本件買付価格関係記載は、あくまで現時点における債権者の方針を示したものであり、より具体的には、仮に競合提案を行う者が出現した場合であっても、適切な評価を逸脱した価格に引き上げることはしないという債権者の方針を説明したものである旨を記載した書面を公表した。(甲55、乙29、32)
セ 債権者の副社長らは、令和7年3月4日、債務者の東京テクニカルセンタを訪問し、債務者の専務ら及び本件特別委員会の委員らとの間で、約1時間35分の面談を行った。(甲21、27、78、85、乙38)
ソ 債務者は、令和7年3月10日、債権者の取締役会に対し、①債務者は同年2月28日までに、複数の第三者(以下「競合提案候補者」という。)から、債務者の完全子会社化を目的とした買収に係る初期的な意向表明書を受領しているところ、今後、提案者らによるDD等を経て、法的拘束力ある最終的な意向表明書を受領した上で、競合提案と本件提案とを真摯に比較検討するプロセスには相応の時間を要すること、②債務者の大株主である本件財団が本件提案に反対していることから、少なくとも本件財団に関する限り、本件株式併合議案関係記載は事実に反していることなどを理由として、改めて本件各要請をする旨を記載した書面(回答期限:同月14日)を送付し、公表した。債権者は、同日、債務者に対し、本件各要請について真摯に検討を重ねており、検討が完了したら改めて通知する旨を記載した書面を送付し、公表した。(甲30、33、48、乙33~35、39、40、42)
タ 債務者は、令和7年3月11日、債権者に対し、追加の質問事項等を記載した質問状⑶(回答期限:同月17日)を送付し、公表した。債権者は、同日、債務者に対し、同質問状に対する回答を記載した書面を送付し、公表した。債務者は、同月18日、債権者に対し、本件各要請に応じるか否かについて、同月19日午後4時45分までに回答するよう要請し、その旨を公表した。債権者は、同日、債務者に対し、本件各要請について真摯に検討を重ねているが、現時点においてもなお、本件各要請に応じるか否かを決定するに至っておらず、検討が完了したら改めて通知する旨を記載した書面を送付し、公表した。(甲31、32、34、35、乙41、43、44、46)
⑷ 債務者による本件TOBへの対応方針の導入等(甲36、乙47、48)
ア 債務者は、令和7年3月19日の取締役会において、同日付けの本件特別委員会の答申に基づき、債務者の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針(会社法施行規則118条3号柱書)を決定し、本件TOBへの対応方針(以下「本件対応方針」という。)を導入することを決議した上で、その要旨(後記イを含む。)を公表した。なお、プレスリリースなどでは、本件対応方針が、債務者及びその株主が本件提案と競合提案とを比較検討した上で本件提案の是非につき適切な判断をするために、競合提案の具体化等に合理的に必要な時間を確保すること(以下「合理的時間確保」という。)のみを目的としている旨が繰り返し説明されている。
イ 本件対応方針の概要
① 本件対応方針に基づき、本件TOBに対してなされることになる対抗措置は、差別的な行使条件及び差別的な取得条項を含む新株予約権の無償割当てであり、その概要は別紙3(乙47〔別紙3〕)のとおりである。
② 本件対応方針の有効期間は令和3年3月19日から1年間とする(ただし、債務者の取締役会の判断により、延長又は廃止が可能)。
③ 債務者は、ⓐ債権者が令和7年5月9日以降に本件TOBを開始した場合、又はⓑ本件TOBの開始前に、債務者が、競合提案候補者から、本件提案よりも実質的に有利な条件と合理的に判断される競合提案に係る法的拘束力ある最終的な意向表明書を受領したことを確認した場合には、それらのいずれか早い時期において、本件対応方針を直ちに廃止する。
④ 債権者が同月8日以前に本件TOBを開始した場合、本件対応方針の規定する大規模買付ルールを遵守しなかったことになる。そのような場合、本件特別委員会は、特段の事情がない限り、債務者の取締役会に対し、対抗措置の発動等について、株主意思確認総会において株主意思(追認を含む。)を確認すべきことを答申するものとし、同取締役会は、かかる答申に従って、同総会において上記対抗措置の発動の承認議案等を付議するものとする。なお、本件提案との関係では、令和7年6月に開催予定の債務者の定時株主総会(以下「本件定時総会」という。)を株主意思確認総会とみなす。
⑸ 本件TOBの開始及びその後の経緯等
ア 債権者は、本件各要請に応じることなく、令和7年4月3日の取締役会において、本件TOBを同月4日から開始すること(当初買付期間の末日は同年5月21日)を決定し、その旨を公表した。なお、その際のプレスリリースには、本件TOBの前提条件(前記⑵エ①)となる中国の競争法上の手続(以下「本件中国競争法手続」という。)について、中国の法律事務所から、当初買付期間の末日までに当該手続に基づく審査期間(一次審査期間30日)が満了することが確実に見込まれる旨の意見を入手したことから、当初買付期間の末日までに債務者株式の取得を実行することが可能になることが合理的に見込まれると判断した旨の記載(甲37〔2頁〕)があり、本件TOBに係る公開買付届出書には、中国の法律事務所から、同年4月18日までには上記審査期間の開始の前提となる事前届出が受理されることが見込まれる旨の意見を入手している旨の記載(甲13〔30頁〕)がある。(甲13、37、40、乙57)
イ 債務者は、令和7年4月10日開催の取締役会において、本件特別委員会の同日付け答申に基づき、取締役全員の一致により、①本件TOBが競合提案や同年3月期決算発表の内容を検討した上で本件提案の是非につき適切な判断をするために合理的に必要な時間を確保せず開始されたものであり、債務者の株主にこれらの検討の機会を与えないまま本件TOBに応募するか否かを決定させるものであること、②本件TOBの条件には相当程度の強圧性が存する具体的な疑いがあり、本件TOBの条件が債務者の株主の共同の利益を害するものであっても、応募せざるを得ない状況を生むものであることを理由として、本件TOBに反対する旨の意見を決議し、その旨を公表した。なお、債務者は、同月11日、関東財務局長に対し、同反対意見を記載した意見表明報告書を提出したところ、債権者は、同月17日、同局長に対し、同報告書に記載された債権者に対する質問に対する回答を記載した報告書を提出した。(甲2、29、52、乙58の2・3、乙59の1、乙60)
ウ 債務者は、令和7年4月10日開催の取締役会において、本件特別委員会の同日付け答申に基づき、取締役全員の一致により、①本件対応方針に基づき、本件無償割当てを実施すること、②本件無償割当てに係る基準日を同年6月26日と定めること、③本件定時総会において、本件無償割当ての発動について株主の意思を確認する議案を付議することをそれぞれ決議し、その旨を公表した。(甲1、乙58の1・3)
⑹ 本件申立て及びその後の経緯等
ア 債権者は、令和7年4月16日、本件申立てをした。
イ 債務者は、令和7年4月21日、本件中国競争法手続の進捗について、同月18日を過ぎても、債権者から事前届出の受理について何の公表もないことなどを指摘して、本件TOBに係る公開買付届出書の記載した同手続に係る見込みが誤っていたのであれば、同届出書の訂正届出書等の提出を行うよう債権者に要請することなどを記載した書面を公表した。(乙131)
ウ 当裁判所は、当事者双方に対し、令和7年4月25日までに疎明資料の提出を終え、同月28日までに主張書面の提出を終えるよう求め、同月30日、本件の第1回審尋期日を実施した。なお、同日には、債務者の令和7年3月期決算発表及び説明会が実施された。(甲51、審尋の全趣旨)
エ 債務者は、本件定時総会を令和7年6月19日に実施することを予定している。なお、債務者は、同年4月28日付け債務者準備書面⑴〔57頁〕において、債権者が、本件TOB期間を本件定時総会後まで延長することを誓約するのであれば、債務者も、当該期間延長が公表された後、直ちに本件無償割当てを中止するとともに本件対応方針を廃止する旨を誓約することができるとの意向を表明したが、債権者は本件TOB期間の延長に応じなかった。(審尋の全趣旨、顕著な事実)
2 争点1(本件無償割当てが株主平等原則に違反するか)について
⑴ 株主平等の原則は、個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務付けるものであるが、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない。そして、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、最終的には、株主自身により判断されるべきものであると解される。(最高裁平成19年8月7日第二小法廷決定民集61巻5号2215頁参照)
そうすると、特定の株主に対する差別的取扱いが株主平等原則の趣旨に違反する違法なものといえるか否かについては、当該差別的取扱いの是非について、株主の意思を確認するための株主総会が予定されている場合には、当該株主総会において示されることとなる株主の意思が尊重されるべきことを前提に、①当該差別的取扱いによって確保されることになる株主共同の利益の有無やその内容、程度等に照らし、当該差別的取扱いが必要であるといえるか、②当該差別的取扱いによってもたらされることになる当該株主に生じる不利益の内容、程度等に照らし、当該差別的取扱いが、その必要性に見合う相当な範囲を逸脱しないものといえるか、をそれぞれ評価した上で判断すべきものと解される。
そこで、まず、上記①により、本件無償割当てによって確保されることになる債務者の株主共同の利益の有無やその内容、程度等に照らし、本件無償割当てが必要であるといえるか(以下「本件無償割当ての必要性」という。)について検討し、次に、上記②により、本件無償割当てによってもたらされることになる債権者の不利益の内容、程度等に照らし、本件無償割当てが、その必要性に見合う相当な範囲を逸脱しないものといえるか(以下「本件無償割当ての相当性」という。)について検討した上で、本件無償割当てが、株主平等原則の趣旨に違反する違法なものといえるかについて判断することとする。
⑵ 本件無償割当ての内容及びその効果等
ア 債務者は、令和7年3月19日開催の取締役会において、独立役員である社外取締役4名によって構成される本件特別委員会の答申に基づき、本件対応方針の導入を決議し、同年4月10日開催の取締役会において、同特別委員会の答申に基づき、①本件対応方針に基づき、本件無償割当てを実施すること、②本件無償割当てに係る基準日を同年6月26日と定めること、③本件定時総会において、本件無償割当ての発動について株主の意思を確認する議案を付議することをそれぞれ決議したものである。そして、同年19日に開催される予定の本件定時総会において、当該議案が普通決議により承認された場合に、同月27日をもって本件無償割当ての効力が生じ、基準日(同月26日)時点における株主名簿上の株主に対し、債務者の普通株式(債務者の自己株式を除く。)1株につき1個の本件A新株予約権(発行要項:別紙1)が割り当てられる設計になっているところ、その内容及びその事実上の効果の概要は、次の(ア)ないし(ウ)のとおりである。
(ア) 本件A新株予約権は、その行使により、本件A新株予約権1個につき同普通株式1株が割り当てられるが、非適格者が保有する本件A新株予約権は、行使することができない旨の差別的行使条件が付されている。債務者は、取締役会決議により、本件A新株予約権1個当たり同普通株式1株を対価として、行使可能な本件A新株予約権(未行使のもの)を取得することができ、また、本件A新株予約権1個当たり本件B新株予約権(発行要項:別紙2)1個を対価として、行使不可能な本件A新株予約権(非適格者が保有するもの)を取得することができるという、差別的取得条項が付されている。
本件B新株予約権は、その行使により、本件B新株予約権1個につき同普通株式1株が割り当てられるが、債務者株式の保有割合が20%を下回る範囲内でのみ行使できるという差別的行使条件が付されている。
(イ) 債権者は、大規模買付者として、非適格者に該当することとなるため、本件無償割当てが効力を生じ、本件A新株予約権の行使又は債務者による取得の結果、非適格者以外の株主が普通株式の割当てを受けると、債権者の保有する債務者株式が希釈化され、本件取引の目的が阻害される帰結をもたらすことになる。また、本件取引が成立しないことに伴って、債権者は、プレミアムを含む本件買付価格で購入した債務者株式を、プレミアムの含まれない価格で売却しなければならなくなることにより、重大な経済的損害を受ける可能性がある(希釈化及びこれに伴って生じる上記の効果を、以下「本来的効果」という。)。
(ウ) もっとも、本件TOBの開始が令和7年5月9日以降に延期されれば、本件対応方針は廃止されることとされており、また、債権者は、本件TOBを同月8日以前に開始した後であっても、その買付期間を本件定時総会後の日まで延期することにより、本件定時総会において、本件無償割当てに係る議案が否決される可能性を残した上で、仮に同議案が可決された場合には、本件TOBを撤回する(金融商品取引法27条の11第1項ただし書、同第2項、同法施行令14条1項1号カ参照)という選択肢を残すことができる。本件TOBが成立した後、本件定時総会において、本件無償割当てに係る議案が可決されることとなれば、債権者は、多大な不利益を受けることとなるため、本件無償割当ての効力が生じる可能性が残る限り、本件TOBの買付期間を延長しないという判断をすることは通常は困難であり、債権者においては、本件TOBの開始を令和7年5月9日以降に延期するか、本件TOBの買付期間を本件定時総会後の日まで延期することを事実上余儀なくされる(この事実上の効果を、以下「中間的効果」という。)。
イ このように、本件無償割当てについては、本件定時総会における承認を前提として本来的効果が生じるほか、その承認に先立って、取締役会決議のみによって中間的効果が生じることとなる。そこで、以下では、本件無償割当てにより中間的効果及び本来的効果が生じることを踏まえて、その必要性及び相当性の有無について検討を加えることとする。
⑶ 本件無償割当ての必要性について
ア 合理的時間確保が必要であることを理由とする本件無償割当ての必要性の有無について
(ア) 債務者は、事前の協議等もなく本件提案がなされてから本件TOBが開始されるまでの検討期間は3か月弱にすぎず、これは他の同種事例に比しても極端に短いところ、債務者及びその株主において、本件提案と競合提案とを比較、検討するため、合理的時間確保が必要であることを指摘して、本件無償割当ては必要であると主張するので、以下検討する。
(イ) 本件TOBは、日本を代表する電機メーカーのひとつである債権者が、大手工作機械メーカーである債務者を完全子会社とすることを目的とする一連の取引(本件取引)の一環として、債務者の普通株式の公開買付けを行うものである。そして、債権者は、本件TOBの公表時までに、複数の工作機械メーカーをその傘下に収め、工作機械事業分野においても、既に、大手の一角を占めるに至っており、今後、さらに同事業を拡大して、世界屈指の工作機械メーカーになることを目指しているのであって、本件取引も、このような方針に沿った企業買収であるとみることができる。
そして、本件買付価格は、1株につき1万1000円とされているところ、これは、本件提案が公表される前の市場株価に比して少なくとも4割を超えるプレミアムが加算された水準であるから、本件取引によって期待される企業価値の向上の一部を債務者の株主が享受する機会を得ることができるという意味において、本件TOBは、債務者の株主に共同の利益をもたらすことを期待し得る取引であるということができる。
また、本件TOBは、債権者のイニシアチブによって予告、開始されるものであり、債権者は、本件提案に先立って、債務者に対して事前交渉やDDを打診していなかったのであるから、債務者ないしその株主において、本件提案の内容やその具体性、目的の正当性、実現可能性、取引条件等について検討するために、一定の時間を要することは否定し難いところ、債権者は、本件TOBの開始日の約3か月前に本件提案を行い、本件提案PRを公表しており、この点に一定の配慮がなされているといえる。
(ウ) 本件無償割当ての中間的効果について
もっとも、債務者ないしその株主の立場からみて、本件提案よりも有利な競合提案がなされることとなれば、当該競合提案自体によって、債務者の株主が享受し得る利益が拡大されるというだけでなく、債務者が、債権者と交渉を行う上でも、より有利な立場に立つことにもつながるものであって、そのような正当な利益を享受する機会を確保することは、株主共同の利益にかなうというべきである。なお、本件TOBを予告、開始した債権者の立場からみれば、競合提案がなされる前に本件TOBを成立させることに利益があるといえるものの、これは株主共同の利益と相反する特定の株主の利益にとどまると言わざるを得ない(確かに、債権者が主張するとおり、債務者の株主の中には本件買付価格で早期に決済がなされることを望む者が含まれている可能性はあるが、そのような株主は株式市場で株式を売却することも選択し得ることも踏まえると、本件においては、有利な競合提案がなされる可能性を確保することによる株主共同の利益に比べて、本件買付価格で早期に決済する利益は劣後するものと言わざるを得ない。)。
そうすると、本件無償割当ての中間的効果、すなわち、債権者が、本件TOBの開始時期を令和7年5月9日まで約1か月間延期するか、当初買付期間を本件定時総会後の日まで約1か月間延長することを余儀なくされることにより、競合提案がなされるであろう一定の蓋然性が生じ、又は高まるといえる場合であって、本件TOBによる利益を享受し得る時期を同程度延期することが株主共同の利益の観点から合理性があると認められるときには、本件無償割当ての必要性を肯定することができるというべきである。
そこで、本件の事実関係についてみると、①債務者においては、競合提案の確保を目指し、令和7年2月12日までに、本件事業計画を新たに策定した上、野村證券株式会社を通じるなどして、競合提案候補者を探索したこと、②その結果、同年2月末頃以降、競合提案を検討することに関心を示した複数の競合提案候補者から、競合提案を検討することについての一定の意向を表明する書面の提出を受けたこと、③その後も、債務者のDDを実施するなどして、競合提案を検討中の競合提案候補者が現在も存在し、債務者において、当該競合提案候補者に対し、速やかに最終的な競合提案を行うよう交渉していること、以上の事実を認めることができる(認定事実⑶サ、ソ、甲63、64、83、乙33~35、39、59の2、乙88の2、審尋の全趣旨)。
このように、債務者においては、事業計画を新たに策定して、競合提案候補者を探索し、DDに応じるなどして、競合提案候補者による検討を促す努力を払っており、競合提案を検討中の競合提案候補者が現在も存在するのであるから、本件TOBの開始が約1か月延期され、又は当初買付期間が約1か月間延長されることにより、競合提案がなされるであろう一定の蓋然性が生じ、又は高まるといえる(乙71、125~127参照)。そして、そのことによる株主共同の利益の重要性に照らせば、本件TOBによる利益を享受し得る時期を同程度の期間延期することは、株主共同の利益の観点から合理性があると認められるから、合理的時間確保が必要であることを理由とする本件無償割当ての中間的効果の必要性を肯定することができる。
(エ) 本件無償割当ての本来的効果について
そして、債権者が合理的時間確保への協力を明示的に拒否している本件の状況の下で、債務者が合理的時間確保のために取り得る手段としては、債権者が最後まで合理的時間確保に応じず、かつ、損失回避のための合理的な行動(本件TOBを延長した上、本件定時総会において、本件無償割当てを承認する議案が可決された場合には、本件TOBを撤回すること)もとらない場合には本件取引の目的達成を阻害することになる仕組みを用意するほかないから、本件無償割当ての本来的効果についても、その必要性を肯定することができる。
イ 合理的時間確保の必要がないことを理由として本件無償割当ての必要性を否定する債権者の主張について
(ア) これに対し、債権者は、❶本件提案の内容は、その提案時に詳細な説明を行っている上、債務者から送付された質問状に対しても真摯に回答し、それらの内容を公表するなど、債務者やその株主が本件提案の内容を検討する上で十分な情報を提供していること、❷本件提案(令和6年12月27日)から本件TOBの開始(令和7年4月4日)までは3か月超(60営業日)の期間があった上に、本件TOBの買付期間も31営業日(本件買付期間延長措置による10営業日を含めると41営業日)確保されているから、上記買付期間中に競合提案を行うことは十分に可能であること、❸競合提案が真摯な提案といえるのかについては、全く明らかにされていない上、債務者は、当初から債権者に対して敵対的態度を取り、買付価格を上げるための交渉を尽くしておらず、株主共同の利益を度外視して、債権者による買収だけを阻止しようとする意図ないし経営支配権維持の目的が明白であること、❹競合提案が一定の時期までになされなかった場合だけでなく、競合提案が一定の時期までになされた場合であっても、本件対応方針の廃止事由ないし本件無償割当ての中止条件に当たるとされていないから、合理的時間確保というのは口実にすぎず、その真の目的は債権者による買収を阻止し、又は経営支配権の維持にあると考えられることなどを指摘し、債務者及びその株主において、本件提案と競合提案とを比較、検討するための十分な時間は既に確保されているのであって、合理的時間確保のために本件無償割当てが必要であるとはいえないなどと主張する。
(イ) 前記(ア)❶について、仮に、債権者の債務者に対する情報提供が十分であり、債務者やその株主が本件提案の内容自体を検討するために合理的に必要となる時間については確保されていたといえるとしても、競合提案がなされていなければ、本件提案と競合提案とを比較、検討することはできないのであるから、本件提案に関する十分な情報提供がなされたことだけをもって、合理的時間確保の必要性を否定することはできない。したがって、債権者の前記(ア)❶の指摘を採用することはできない。
(ウ) 前記(ア)❷について、本件買付価格に、債務者の発行済株式総数(乙5)から債務者が有する自己株式の数(乙6の1)を控除した数を乗じると、債務者の完全子会社化を提案するには少なくとも2572億円以上の買収資金を要することが明らかであるから、競合提案のために必要な準備には相応に時間を要することが容易に理解できるところである。そして、債務者の完全子会社化について法的拘束力のある意向表明をして公表するまでに必要な準備は競合提案候補者の属性等により異なりうるが、一般的には、初期的な企業価値の検討、各種DD、本源的な株主価値の算定、取引のストラクチャリング、資金調達、機関決定、適時開示(プレスリリース)及び公開買付届出書の準備等の手続を要するといえる。したがって、競合提案候補者による検討等の前後における、競合提案候補者の探索や競合提案候補者からの提案に対する債務者の本件特別委員会及び取締役会における検討並びに交渉に要する期間を加えれば、より条件のよい競合提案を受領して株主共同の利益を図るためには、本件提案時から本件TOBの開始日である令和6年4月4日までの3か月程度(61営業日)の期間、さらにはこれに当初買付期間である31営業日(追加買付期間も含める場合には41営業日)を加えたとしても十分ではなく、令和7年5月9日まで本件TOBの開始を約1か月延期させるなどの中間的効果による合理的時間確保が必要であるとした債務者の判断が不合理であったとはいえない。したがって、債権者の前記(ア)❷の指摘を採用することはできない。
なお、債務者の代表取締役であるQ社長が、同年4月16日、報道陣に対し、同年5月21日までに競合提案を受け取る可能性について問われたのに対し、「間に合わせていただけると確信している」などと発言した事実が認められる(甲63、64、121)が、この発言は、上記日程で競合提案をしてもらえるように交渉を行っていることを述べる趣旨にとどまり、上記発言をもって、本件提案と競合提案とを比較、検討するための十分な時間が既に確保されていることを債務者が自認しているなどと評価し得ないことは明らかである。
(エ) 前記(ア)❸について、債務者のDDを実施するなどして、競合提案を検討中の競合提案候補者が現在も存在し、債務者において、当該競合提案候補者に対し、速やかに最終的な競合提案を行うよう交渉していることなどの事実が認められることは、前記ア(ウ)のとおりである。そして、前記アのとおり、合理的時間確保が必要であって、本件買付開始延期要請を行う合理的な理由が存在し、本件各要請等を巡る立場の違いがある状況において、債務者が、債権者との直接交渉に消極的であったからといって、本件無償割当てについて、債務者が、株主共同の利益を度外視し、債権者による買収だけを阻止しようとする意図が明白であるとか、その主要な目的が経営支配権の維持にあったなどと推認することはできない。したがって、債権者の前記(ア)❸の指摘を採用することはできない。
(オ) 前記(ア)❹について、本件対応方針においては、債権者が、本件TOBの開始時期を、令和6年5月9日以降に延期した場合、又は、本件TOBの開始前に、債務者が、競合提案候補者から、本件提案よりも実質的に有利な条件と合理的に判断される競合提案に係る法的拘束力ある最終的な意向表明書を受領したことを確認した場合には、それらのいずれか早い時期において、本件対応方針を直ちに廃止するものと規定されているのであるから、本件対応方針は、本件TOBの開始時期の延期又は本件買付期間の延長を余儀なくさせるという以上に、債権者による買収自体を阻止することができるように設計されているとはいえない。
もっとも、確かに、本件対応方針については、本件TOB開始後に競合提案がなされたにもかかわらず、又は、中間的効果により本件定時総会後まで本件TOB期間が延長されても結局は競合提案がなされなかったにもかかわらず、なお債務者の経営陣が本来的効果を生じさせようとするような、本件対応方針の趣旨に反する事態も理論上は起こり得る。しかし、債務者によって認定事実⑹エの提案がなされた本件の審理経過に照らすと、上記のような状況になってもなお、債務者の経営陣が、買収自体を阻止するため、株主共同の利益に反して、本件対応方針の仕組みを濫用して、本件無償割当ての発動を強行しようとしていることを疑うに足りる事情は認められない。また、本件対応方針の下において、債務者の取締役会は、本件特別委員会の答申に従って、本件定時総会において本件無償割当ての承認議案を付議することになり、その承認が得られなければ、本件無償割当てが発動されることはないとされているのであるから、仮に、債務者の経営陣が、債権者が懸念するごとく本件対応方針の仕組みを濫用して買収自体を阻止しようとした場合には、本件特別委員会及び本件定時総会が、その抑止に一定の役割を果たすことを期待できる。
そうすると、本件対応方針の設計内容等をもって、合理的時間確保というのは口実にすぎず、その真の目的は債権者による買収を阻止することにあるとか、その主要な目的が経営支配権の維持にあるなどと推認することはできない。したがって、債権者の前記(ア)❹の指摘を採用することはできない。
(カ) 以上のとおりであるから、前記(ア)の債権者の主張を採用することはできない。
ウ 本件無償割当ての必要性を否定する債権者のその他の主張について
(ア) 債権者は、❺本件TOBについては、買付予定数の下限が総議決権数の過半数となるように設定された上、追加買付期間も設定され、これらの概要は事前に公表されているから、そもそも強圧性の問題は生じず、少なくとも相当程度解消されているから、本件提案の是非に関する株主の意思は、本件TOBへの応募・不応募によって確認するのが相当であり、これに加えて株主意思の確認のために基準日の問題がある株主総会決議を加えても意味はないのであって、本件定時総会における株主総会決議により、本件無償割当ての承認が得られることが、その効力発生の条件とされていることによって、本件無償割当ての必要性は補強されない、❻本件提案の是非に関する株主の意思を株主総会決議を通じて確認される必要があるとの立場を前提としても、当初買付期間の末日までに臨時株主総会を招集して、株主の意思を確認することは可能であったなどと指摘する。
(イ) 前記(ア)❺の指摘のうち強圧性について、本件TOBにおいては、買付予定数の下限が総議決権数の過半数となるように設定されているから、当初買付期間中に総議決権数の3分の2に満たない株式数の応募によって本件TOBが成立した場合、債権者としては、追加買付期間において、最大で議決権数の6分の1に相当する株式を追加取得できなければ、株式併合付議総会において株式併合議案が否決され、その結果として、債権者が総議決権数の過半数を占めるに至った債務者において、少数株主として取り残されるという懸念は、少なくとも理論上は残るものといえる。なお、債権者は、株式併合付議総会において株式併合議案が否決されたとしても、その後も本件買付価格と同額での債務者株式の追加取得の意向を表明しているところ、このことは、同懸念を軽減する事情に当たるものの、同懸念を払拭させる事情になるとまではいえない。
他方、本件TOBにおいては、追加応募期間が設定されているから、当初買付期間中には総議決権数の3分の2に満たない株式数の応募によって本件TOBが成立した場合であっても、追加応募期間中の応募が相当程度集まると期待できること(ただし、株式併合付議総会後に、債務者株式の売却を検討すれば足りると考える株主が一定数生じ得ることも否定できない。)、株式併合付議総会において、本件TOBに応募しなかった株主の中には、株式併合議案に反対する者だけでなく、同総会を欠席する者や同議案に賛成する者もいることが想定される。そうすると、当初買付期間中には総議決権数の3分の2に満たない株式数の応募によって本件TOBが成立した場合、現実的には、株式併合付議総会において、出席株主の議決権数の3分の2以上の賛成を得ることができず、株式併合議案が否決される可能性はさほど高いとはいえないものと見込まれる。
しかしながら、そもそも、株主共同の利益を確保するために特定の株主の差別的取扱いの必要性が認められるのは、強圧性の問題に対応するために株主総会決議によって株主の意思を確認する必要がある場合に限られるわけではない。
そして、本件TOBへの応募は、本件買付価格による買付けに応じるか否かのいずれかしか選択肢がない前提で、個々の株主が債権者による買付けに応じるか否かを判断するものである。これに対して、本件定時総会における本件無償割当てに関する決議は、債務者が求めた合理的時間確保に応じなかった債権者に対してどのように対応すべきか(本来的効果を生じさせて本件TOBの撤回を迫るか、それとも、本来的効果を生じさせずに本件TOBを容認するか)について、機関としての株主総会が勧告的決議という形で意思を表明するものである。このように、本来的効果を生じさせるべきかについての最終的な判断を株主総会決議に委ねることには、一方において中間的効果を発生させつつ、他方において取締役会の恣意性を排除する意味があるといえる(本件TOBを待つのみでは前者が得られず、取締役会決議のみで本件無償割当てを発動させれば本件無償割当て自体について株主が判断を示す機会がない。)。
そうすると、本件において認定することができる強圧性が上記の程度のものであるからといって、合理的時間確保を目的とする本件無償割当ての中間的効果及び本来的効果の必要性を否定すべき理由にはならない。したがって、債権者の前記(ア)❺の指摘を採用することはできない。
(ウ) 前記(ア)❻について、当初買付期間の末日までに臨時株主総会を招集して、株主の意思を確認することが可能であったとしても、その段階では、競合提案の具体化等に合理的に必要な時間が確保されておらず、本件提案と競合提案を比較検討した上で本件提案の是非につき適切な判断をすることができる状況に至っていないのであるから、合理的時間確保が必要であることを理由とする本件無償割当ての必要性を否定すべき理由には当たらないというほかない。したがって、債権者の前記(ア)❻の指摘を採用することはできない。
(エ) 以上のとおりであるから、前記アの債権者の主張を採用することはできない。一件記録を検討しても、合理的時間確保が必要であることを理由とする本件無償割当ての中間的効果及び本来的効果の必要性を否定すべき事情は、他にも見当たらない。
エ 小括
以上検討したところによれば、本件無償割当てについては、合理的時間確保が必要であることを理由として、中間的効果及び本来的効果の必要性があると認めることができる。
⑷ 本件無償割当ての相当性について
ア 本件無償割当ての中間的効果について
本件TOBの開始を令和7年5月9日以降に延期することにより、本件無償割当ては中止されるところ、本件TOBの開始を令和7年5月9日以降に1か月程度延期することによって、本件取引の実現が1か月程度後れるという意味で債権者が一定の不利益を受けること(本件無償割当ての中間的効果が生じること)は否定し難いものの、そのような不利益を超える格別の不利益が債権者に生じることは、債権者自身も主張しておらず、一件記録からも特にうかがわれない。そして、前記⑶において説示したとおり、本件無償割当てについては、合理的時間確保が必要であることから、その必要性が肯定されるところ、そのような必要性の内容や程度等に照らして、本件無償割当ての事実上の効果により債権者が甘受しなければならなくなる不利益の内容や程度等は限定的であるといえることに加えて、債務者の取締役らは、当初買付期間を本件定時総会の後まで延長させる中間的効果を生じさせた判断の相当性について、本件定時総会における事後的な評価を受けることになるから、本件無償割当てにより生じる中間的効果については、その必要性に見合う相当な範囲を逸脱しないものであると認められる。
なお、債権者が本件買付開始延期要請に応じた場合には、競合提案がなされるであろう一定の蓋然性が生じ、又は高まるところ、そのことにより債権者が受ける不利益は、債務者の株主共同の利益に劣後するものというべきである。そして、本件中国競争法手続がいまだ完了しておらず、その完了が見込まれる時期が必ずしも判然としないように見受けられるという事情も考慮すれば、本件中国競争法手続次第では、債権者において、本件無償割当てとは関係なく、当初買付期間を延長せざるを得なくなることも考えられるところであって、本件無償割当ての相当性は、より一層基礎付けられるものといえる。
イ 本件無償割当ての本来的効果について
本件無償割当ての本来的効果である希釈化等は、本件定時総会による承認決議があって初めて具体化するものであることに加えて、債権者も自認しているとおり、債権者においては、保有割合が20%未満に収まる範囲であれば、本件B新株予約権を行使して債務者株式を取得することなどにより、経済的損失を一定程度は軽減し得るところである。そして、本件TOBの開始を令和7年5月9日以降に延期すること(開始後については、一旦撤回した上で、同月8日までに再開しないこと)により、債権者は、本件無償割当てを回避できたものであるし、その買付期間を本件定時総会後の日まで延長することにより、本件無償割当ての承認に係る議案が否決される可能性を残しつつ、可決された場合には本件TOBを撤回して、債権者の保有する債務者株式の議決権割合が希釈化されるリスクを回避することもできる。さらに、本件TOBを一旦撤回した後は、再び債務者株式の公開買付けを試みることも不可能ではない。
したがって、本件無償割当ての本来的効果についても、その必要性に見合う相当な範囲を逸脱しないものであると認められる。
ウ 以上に対し、債権者は、本件無償割当てにより、債権者の保有する債務者株式の保有割合が20%を下回る範囲内でのみ行使可能な本件B新株予約権しか交付されないため、極めて限定的な損害の填補しか受けられないこと、本件TOBの終了後には、債務者株式の市場株価は本件TOB公表前の市場株価の水準に戻ることが想定されるから、その差額に本件TOBにより取得した株式数を乗じた額に相当する数百億円レベルの甚大な損害を受けることになることなどを指摘して、本件無償割当ては、その必要性に見合う相当な範囲を逸脱するものであることを主張しているものと解される。
しかしながら、前記イのとおり、本件無償割当てに伴う希釈化等の本来的効果は、株主総会の決議があって初めて具体化するものであることに加えて、債権者において損害を回避又は軽減することが可能であるから、相当性に欠けるところはない。
したがって、債権者の上記主張を採用することはできない。
エ また、債権者は、本件無償割当てについて、当初買付期間を本件定時総会の後まで延長させる効果を生じさせ、その所期の目的を達することができるから、取締役会決議により発動されるものにほかならないと指摘した上、株主総会決議を経ることなく、取締役会決議のみによって、買収防衛策を発動するものであって許されるものではなく、また、債権者に対し、買付期間の延長を余儀なくさせることは、30営業日の買付期間延長請求を許容している金融商品取引法27条の10第2項、同法施行令9条の3第6項の趣旨にも反するというべきであるから、そのような本件無償割当てについては、相当性を欠くものであることを主張しているものと解される。
しかしながら、本件無償割当てについては、希釈化等の本来的効果が生じる前に、本件定時総会においてその承認議案が付議されている上、前記アにおいて説示したとおり、本件無償割当てにより債権者が甘受しなければならなくなる不利益の内容や程度等が限定的であること、及び、当初買付期間を本件定時総会の後まで延長させる中間的効果を生じさせた取締役らの判断の相当性についても本件定時総会における株主総会決議による事後的な評価がなされることに照らせば、本件無償割当ての中間的効果が取締役会決議により生じることをもって、相当性を欠くものということはできない。その意味で、本件無償割当ては、本件TOBの阻止に向けられた伝統的な意味での買収防衛策ではなく、競合提案の具体化等に合理的に必要な時間を確保することを目的とした対応にとどまるものといえる。
また、債権者の指摘する金融商品取引法27条の10第2項等は、株主共同の利益を確保するために特定の株主の差別的取扱いの必要がある場合において、公開買付者に対し、買付期間の延長等の中間的効果を生じさせることを許さない趣旨を含むとは解されない。
したがって、債権者の上記主張を採用することはできない。
オ 小括
以上検討したところによれば、本件無償割当ての中間的効果及び本来的効果については、前記⑶において認定したその必要性の内容や程度等に見合う相当な範囲を逸脱しないものであると認めることができる。
⑸ まとめ
以上の次第で、本件無償割当てについては、本件TOBと競合提案との比較検討等を通じて、企業買収に伴う正当な利益を債務者の株主が享受する機会を確保するための必要かつ相当な差別的取扱いというべきであるから、これが株主平等原則の趣旨に違反する違法なものであるということはできず、会社法247条1項1号の事由について疎明を欠く。
3 争点2(本件無償割当てが著しく不公正な方法により行われるものであるか)について
⑴ 債権者は、本件無償割当てについて、現に経営支配権争いが生じている場面であり、その内容が債権者の保有する債務者株式の保有割合を低下させる差別的な内容のものであって、債務者の現取締役らの経営支配権維持の目的が推認され、これを正当化すべき特段の事情も認められないことから、著しく不公正な方法により行われたものであるなどと主張する。
しかしながら、前記2⑶のとおり、本件無償割当てについて、合理的時間確保が必要であることを理由とする本件無償割当ての必要性が肯定される上に、本件無償割当ては、債権者が損失を受けることを回避して合理的に行動する限り、結局のところ、競合提案を待つための時間を1か月程度確保できるにすぎず、債務者の一般株主にとって有利な競合提案が現れない限りは債権者による買収を阻止する効果を持ち得ないのであるから、本件無償割当ての主要な目的は合理的時間確保にあり、債務者の現取締役らの経営支配権維持は、本件無償割当ての主要な目的ではないと認められる。したがって、債権者の上記主張は採用できない。
他に、一件記録によっても、本件無償割当てが著しく不公正な方法により行われるものであるとことをうかがわせる資料は見当たらない。
⑵ したがって、会社法247条1項2号の事由についても疎明を欠く。
4 結論
以上によれば、本件申立ては、被保全権利について疎明がないことに帰するから、争点3(本件無償割当てにより債権者が不利益を受けるおそれがあるか)及び争点4(保全の必要性)について検討するまでもなく、理由がない。よって、本件申立てを却下することとして、主文のとおり決定する。
令和7年5月7日
東京地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官 柴田 義人
裁判官 井出 正弘
裁判官 金崎 哲平
(別紙1)
第1回A新株予約権発行要項
1 新株予約権の名称
第1回A新株予約権(以下「本A新株予約権」という。)
2 本A新株予約権の数
基準日(第5項で定義される。以下同じ。)における当社の最終の発行済株式の総数(但し、当社が有する当社株式の数を控除する。)とする。
3 割当方法
株主割当の方法による。基準日現在の株主名簿に記載又は記録された株主に対し、その有する当社株式1株につき、1個の割合をもって、本A新株予約権を割り当てる。但し、当社が有する当社株式には、本A新株予約権を割り当てない。
4 本A新株予約権の払込金額
無償
5 基準日
2025年6月26日
6 本A新株予約権の割当てが効力を発生する日
2025年6月27日
7 本A新株予約権の目的である株式の種類及び数
本A新株予約権1個当たりの目的である株式の種類及び数は、当社普通株式1株とする。
8 本A新株予約権の行使期間
2025年8月1日から2026年7月末日までとする。
9 本A新株予約権の行使に際して出資される財産の価額
⑴ 各本A新株予約権の行使に際して出資される財産は金銭とし、その価額は、行使価額(下記⑵で定義される。)に割当株式数を乗じた額とする。
⑵ 本A新株予約権の行使に際して出資される当社普通株式1株当たりの金銭の額(以下「行使価額」という。)は、1円とする。
10 本A新株予約権の行使の条件
⑴ 非適格者が保有する本A新株予約権(実質的に保有するものを含む。)は、行使することができない。
「非適格者」とは、以下のいずれかに該当する者をいう。
(ⅰ) 大規模買付者
(ⅱ) 大規模買付者の共同保有者(金融商品取引法第27条の23第5項及び第6項)
(ⅲ) 大規模買付者の特別関係者(金融商品取引法第27条の2第7項)
(ⅳ) 取締役会が特別委員会による答申を踏まえて以下のいずれかに該当すると合理的に認定した者
⒳ 上記(ⅰ)から本(ⅳ)までに該当する者から当社の承認なく本A新株予約権を譲り受け又は承継した者
⒴ 上記(ⅰ)から本(ⅳ)までに該当する者の「関係者」。「関係者」とは、これらの者との間にフィナンシャル・アドバイザリー契約ないし公開買付代理人契約を締結している投資銀行、証券会社その他の金融機関、これらの者のために行動する弁護士、公認会計士、税理士、コンサルタントその他のアドバイザー、その他これらの者と実質的利害を共通にしている者、又はこれらの者が実質的に支配し、若しくはこれらの者と共同ないし協調して行動する全ての者をいう。組合その他のファンドに係る「関係者」の判断においては、ファンド・マネージャーの実質的同一性その他の諸事情を勘案する。
⑵ 新株予約権者は、当社に対し、上記⑴の非適格者に該当しないこと(第三者のために行使する場合には当該第三者が上記⑴の非適格者に該当しないことを含む。)についての表明・保証条項、補償条項その他当社が定める事項を記載した書面、合理的範囲内で当社が求める条件充足を示す資料及び法令等により必要とされる書面を提出した場合に限り、本A新株予約権を行使することができる。
⑶ 適用ある外国の証券法その他の法令等上、当該法令等の管轄地域に所在する者による本A新株予約権の行使に関し、所定の手続の履行又は所定の条件の充足が必要とされる場合、当該管轄地域に所在する者は、当該手続及び条件が全て履行又は充足されていると当社が認めた場合に限り、本A新株予約権を行使することができる。なお、当社が上記手続及び条件を履行又は充足することで当該管轄地域に所在する者が本A新株予約権を行使することができる場合であっても、当社としてこれを履行又は充足する義務を負うものではない。
⑷ 上記⑶の条件の充足の確認は、上記⑵に定める手続に準じた手続で取締役会が定めるところによる。
⑸ 各本A新株予約権の一部行使は、できない。
11 本A新株予約権の譲渡制限
本A新株予約権の譲渡については、当社取締役会の承認を要する。
12 本A新株予約権の取得
⑴ 本A新株予約権の割当てが効力を発生する日以降に当社取締役会が決議した場合は、同取締役会で定める取得日に、全ての、当該取得日時点で未行使であり、第10項⑴及び⑵の規定に従い行使可能な本A新株予約権(下記⑵において「行使適格本A新株予約権」という。)につき、取得に係る本A新株予約権の数に、本A新株予約権1個当たりの目的となる株式の数を乗じた数の当社普通株式を対価として、本A新株予約権者(当社を除く。)の保有する本A新株予約権を、当社は取得することができる。
⑵ 本A新株予約権の割当てが効力を発生する日以降に当社取締役会が決議した場合は、同取締役会で定める取得日に、当該取得日時点で未行使である行使適格本A新株予約権以外の全ての本A新株予約権につき、取得に係る本A新株予約権と同数の当社新株予約権で非適格者による行使に一定の制約が付されたもの(別紙2第1回B新株予約権に記載する内容のものとする。)を対価として、本A新株予約権者(当社を除く。)の保有する本A新株予約権を、当社は取得することができる。
⑶ 当社は、2025年7月末日までの間はいつでも、当社が本A新株予約権を取得することが適切であると当社取締役会が認める場合には、当社取締役会が別途定める日の到来をもって、全ての本A新株予約権を無償で取得できる。
⑷ 上記⑴及び⑵に基づく本A新株予約権の取得に関する条件充足に関しては、第10項⑵に定める手続に準じた手続により確認する。
13 本A新株予約権の行使により株式を発行する場合の増加する資本金及び資本準備金
本A新株予約権の行使により株式を発行する場合の増加する資本金の額は、会社計算規則第17条の定めるところに従って算定された資本金等増加限度額に0.5を乗じた金額とし、計算の結果1円未満の端数を生じる場合はその端数を切り上げた額とする。増加する資本準備金の額は、資本金等増加限度額より増加する資本金の額を減じた額とする。
14 本A新株予約権の行使請求の方法
⑴ 本A新株予約権を行使する場合、第8項記載の本A新株予約権を行使できる期間中に第16項記載の行使請求受付場所に対して、行使請求に必要な事項を通知する。
⑵ 本A新株予約権を行使する場合、前号の行使請求の通知に加えて、本A新株予約権の行使に際して出資される財産の価額の全額を現金にて第17項に定める払込取扱場所の当社が指定する口座に振り込む。
⑶ 本A新株予約権の行使請求の効力は、第16項記載の行使請求受付場所に対する行使請求に必要な全部の事項の通知が行われ、かつ当該本A新株予約権の行使に際して出資される財産の価額の全額が前号に定める口座に入金された日に発生する。
15 新株予約権証券の不発行
当社は、本A新株予約権に関して、新株予約権証券を発行しない。
16 行使請求受付場所
法務・コンプライアンス室
17 払込取扱場所
三菱UFJ信託銀行株式会社
18 その他
上記に定めるもののほか、本A新株予約権発行に関し必要な事項の決定その他一切の行為について当社取締役社長に一任する。
(別紙2)
第1回B新株予約権の内容
1 新株予約権の名称
第1回B新株予約権(以下「本B新株予約権」という。)
2 本B新株予約権の目的である株式の種類及び数
本B新株予約権1個当たりの目的である株式の種類及び数は、当社普通株式1株とする。
3 本B新株予約権の行使期間
2025年8月1日から2040年7月末日までとする。
4 本B新株予約権の行使に際して出資される財産の価額
⑴ 各本B新株予約権の行使に際して出資される財産は金銭とし、その価額は、行使価額(下記⑵で定義される。)に割当株式数を乗じた額とする。
⑵ 本B新株予約権の行使に際して出資される当社普通株式1株当たりの金銭の額(以下「行使価額」という。)は、1円とする。
5 本B新株予約権の行使の条件
⑴ 本B新株予約権の保有者その他の非適格者(下記⑶で定義される。以下同じ。)は、(ⅰ)その株券等保有割合(金融商品取引法第27条の23第4項に規定する株券等保有割合をいう。)(但し、本項において、株券等保有割合の計算に当たっては本B新株予約権の保有者やその共同保有者以外の非適格者についても当該本B新株予約権の保有者の共同保有者とみなして算定を行うものとし、また、非適格者の保有する本B新株予約権は除外して算定する。)として当社取締役会が認めた割合が20%を下回っているとき、又は(ⅱ)本B新株予約権の保有者の株券等保有割合として当社取締役会が認めた割合が20%以上である場合において、本B新株予約権の保有者その他の非適格者が、当社が認める証券会社に委託をして当社株式を処分し、当該処分を行った後における本B新株予約権の保有者の株券等保有割合として当社取締役会が認めた割合が20%を下回ったときは、本B新株予約権につき、本B新株予約権の行使後の本B新株予約権の保有者の株券等保有割合として当社取締役会が認める割合が20%を下回る範囲内でのみ行使できる(本B新株予約権の保有者その他の非適格者が、本B新株予約権を第三者のために行使する場合には当該第三者も以上の条件を満たす必要がある。)。
⑵ 適用ある外国の証券法その他の法令等上、当該法令等の管轄地域に所在する者による本B新株予約権の行使に関し、所定の手続の履行又は所定の条件の充足が必要とされる場合、当該管轄地域に所在する者は、当該手続及び条件が全て履行又は充足されていると当社が認めた場合に限り、本B新株予約権を行使できる。なお、当社が上記手続及び条件を履行又は充足することで当該管轄地域に所在する者が本B新株予約権を行使できる場合であっても、当社としてこれを履行又は充足する義務を負うものではない。
⑶ 非適格者とは、以下の①乃至④に該当する者を意味する。
① 本B新株予約権の保有者
② 本B新株予約権の保有者の共同保有者(金融商品取引法第27条の23第5項に規定する「共同保有者」をいい、同条第6項に基づき共同保有者とみなされる者を含む。)
③ 本B新株予約権の保有者の特別関係者(金融商品取引法第27条の2第7項に規定する「特別関係者」をいう。)
④ 当社取締役会が以下のいずれかに該当すると合理的に認定した者
⒜ 上記①から本④までに該当する者から当社の承認なく本B新株予約権を譲り受け又は承継した者
⒝ 上記①から本④までに該当する者の「関係者」。なお、「関係者」とは、これらの者との間にフィナンシャル・アドバイザリー契約ないし公開買付代理人契約を締結している投資銀行、証券会社その他の金融機関、これらの者のために行動する弁護士、公認会計士、税理士、コンサルタントその他のアドバイザー、その他これらの者と実質的利害を共通にしている者、又はこれらの者が実質的に支配し、若しくはこれらの者と共同ないし協調して行動する全ての者をいう。組合その他のファンドに係る「関係者」の判断においては、ファンド・マネージャーの実質的同一性その他の諸事情を勘案する。
⑷ 上記⑵の条件の充足の確認は、当社取締役会が定めるところによる。
⑸ 各本B新株予約権の一部行使は、できない。
6 本B新株予約権の譲渡制限
本B新株予約権の譲渡については、当社取締役会の承認を要する。
7 本B新株予約権の取得
当社は、本B新株予約権が交付された日から10年を経過する日以降、11年を経過する日までの間で当社取締役会が別途定める日(以下「本B新株予約権取得日」とする。)において、未行使の本B新株予約権が残存するときは、当該本B新株予約権の全て(但し、行使条件が充足されていないものに限る。)を、本B新株予約権取得日時点における当該本B新株予約権の公正価額に相当する金銭を対価として取得できる。
8 本B新株予約権の行使により株式を発行する場合の増加する資本金及び資本準備金
本B新株予約権の行使により株式を発行する場合の増加する資本金の額は、会社計算規則第17条の定めるところに従って算定された資本金等増加限度額に0.5を乗じた金額とし、計算の結果1円未満の端数を生じる場合はその端数を切り上げた額とする。増加する資本準備金の額は、資本金等増加限度額より増加する資本金の額を減じた額とする。
9 本B新株予約権の行使請求の方法
⑴ 本B新株予約権を行使する場合、第3項記載の本B新株予約権を行使できる期間中に第11項記載の行使請求受付場所に対して、行使請求に必要な事項を通知する。
⑵ 本B新株予約権を行使する場合、前号の行使請求の通知に加えて、本B新株予約権の行使に際して出資される財産の価額の全額を現金にて第12項に定める払込取扱場所の当社が指定する口座に振り込む。
⑶ 本B新株予約権の行使請求の効力は、第11項記載の行使請求受付場所に対する行使請求に必要な全部の事項の通知が行われ、かつ当該本B新株予約権の行使に際して出資される財産の価額の全額が前号に定める口座に入金された日に発生する。
10 新株予約権証券の不発行
当社は、本B新株予約権に関して、新株予約権証券を発行しない。
11 行使請求受付場所
法務・コンプライアンス室
12 払込取扱場所
三菱UFJ信託銀行株式会社
13 その他
上記に定めるもののほか、本B新株予約権発行に関し必要な事項の決定その他一切の行為について当社取締役社長に一任する。
(別紙3)
対抗措置としての新株予約権無償割当ての概要
1. 割当対象株主
当社取締役会で別途定める基準日における最終の株主名簿に記載又は記録された株主に対し、その所有株式(但し、当社の有する当社普通株式を除く。)1株につき1個の割合で新株予約権の無償割当てをする。
2. 新株予約権の目的である株式の数
新株予約権の目的である株式の種類は当社普通株式とし、新株予約権の行使により交付される当社普通株式は1株以下とする。
3. 新株予約権の無償割当ての効力発生日
当社取締役会において別途定める。
4. 各新株予約権の行使に際して出資される財産の価額
各新株予約権の行使に際して行われる出資の目的は金銭とし、新株予約権の行使に際して出資される財産の当社普通株式1株当たりの価額は金1円とする。
5. 新株予約権の譲渡制限
新株予約権の譲渡による取得については、当社取締役会の承認を要するものとする。
6. 新株予約権の行使条件
新株予約権の行使条件は当社取締役会において別途定めるものとする(なお、例外事由該当者による権利行使は認められないとの行使条件等、大規模買付行為等に対する対抗措置としての効果を勘案した行使条件を付すこともあり得る。)。
7. 当社による新株予約権の取得
以下に定める取得条項その他の大規模買付行為等に対する対抗措置としての効果を勘案した取得条項を付すことがあり得る。
⒜ 当社は、本新株予約権の無償割当ての効力発生日以後の日で取締役会が定める日において、未行使の本新株予約権で、行使可能な(即ち例外事由該当者に該当しない者が保有する)もの(以下「行使適格本新株予約権」という。)について、取得に係る本新株予約権の数に、本新株予約権1個当たりの目的となる株式の数を乗じた数の整数部分に該当する数の当社普通株式を対価として取得することができる。
⒝ 当社は、本新株予約権の無償割当ての効力発生日以後の日で取締役会が定める日において、未行使の本新株予約権で行使適格本新株予約権以外のものについて、取得に係る本新株予約権と同数の新株予約権で例外事由該当者の行使に一定の制約が付されたもの(以下に規定する行使条件及び取得条項その他取締役会が定める内容のものとする。以下「第2新株予約権」という。)を対価として取得することができる。
(ⅰ) 行使条件
例外事由該当者は、次の⒳及び⒴をいずれも満たす場合その他取締役会が定める場合を除き、第2新株予約権を行使できない。
⒳ 第2新株予約権の保有者が、大規模買付行為等を継続しておらず、かつ、その後も大規模買付行為等を実施しない旨を誓約すること
⒴ 特定株主グループの株券等保有割合が20%未満となった場合(但し、行使後の株券等保有割合が20%未満となる数の第2新株予約権に限る。)
(ⅱ) 取得条項
当社は、第2新株予約権が交付された日から10年後の日において、なお行使されていない第2新株予約権が残存するときは、当該第2新株予約権(但し、行使条件が充足されていないものに限る。)を、その時点における第2新株予約権の時価に相当する金銭を対価として取得することができる。
8. 新株予約権の無償取得事由(対抗措置の廃止事由)
以下の事由のいずれかが生じたときは、当社は、新株予約権の全部を無償にて取得することができるものとする。
⒜ 当社株主意思確認総会において大規模買付者を含む特定株主グループによる大規模買付行為等の実行について承認が得られた場合
⒝ 当社取締役会が、対抗措置を廃止することが取締役の善管注意義務に適う等の事情があると認め、対抗措置の廃止を決議した場合
⒞ 特別委員会の全員一致による決定があった場合
⒟ その他当社取締役会が別途定める場合
9. 新株予約権の行使期間等
新株予約権の行使期間その他必要な事項については、大規模買付行為等に対する対抗措置としての効果を勘案する等して、当社取締役会において別途定めるものとする。
以 上
